山本巧次『阪堺電車177号の追憶』(ハヤカワ文庫JA)を読みました。
2017年9月に発行された短編集の小説です。阪堺電車をモチーフにした短編が収録されています。
阪堺電車最古の形式・モ161形。実在のモ161形は1928年に導入され、161~176号までが製造されました。うち161~170号が1928年、171号~176号が1931年に製造されました。2017年現在でも、161号・162号・164号・166号が現役です。
この物語の主人公は、モ161形の架空の車両「177号」。物語の中では、モ161形の中では最後に製造された車両の設定。
新型車両「1004号」(架空)が導入されることで、その代替として廃車が決まった「177号」が、廃車直前に85年間の思い出を振り返って語る形で、乗務員や乗客・沿線風景をめぐる短編の物語が、各時代ごとに収められています。
新車として導入された昭和初期の風景、戦前戦中の頃、高度経済成長期、バブル期など、各時代の話題がちりばめられています。
いずれの物語も架空のものですが、住吉や阿倍野、塚西など、実際の阪堺沿線の地理や歴史を詳細に踏まえた形で書き込まれていて、引き込まれます。
短編は各編ごとに独立していますが、各編ごとに相互につながっている仕掛けもなされています。
阪堺沿線の情景が浮かんできて、引き込まれる小説です。
【参考画像】
登場当初の復刻塗装で営業運転に就くモ161形、161号(2015年12月、天神ノ森駅)
住吉公園駅(現在は廃止)で発車を待つモ161形、168号(廃車)。2011年2月。